春一番?

2002年3月18日
闇の中で木々があおられている。
薫子はあまりの風の強さに立ち止まった。
周囲に人陰はない。

風の音で何の音も聞こえない。と思った瞬間、薫子の頭上を錘のようなものがかすめ、と同時に何か堅いものが打ち付けられるような高い音が響いた。

薫子は驚いて振り返った。

風でかんぬきがはずれ、観音開きの扉が開いてしまったのだ。扉はそれきり風にあおられ、開いたり閉じたりしている。
薫子は墓地と教会の前に立ち尽くして、呆然と扉を見つめていた。

夜空を背景に建つ教会の正面に、結界を解き放った扉が闇とともにぽっかりと口をあけていた。
「このドア閉めないと……」
薫子は教会へつづく階段を駆け上った。
教会の中へ入れば司祭か誰かいるだろう。呼び鈴をおして呼べばいい。
それにしても、さっきのかんぬきで頭を殴打されなくてよかった。
そう思いながら薫子は開閉しっぱなしになっている扉をおさえて、教会へ足を踏み入れた。

同じ敷地に住んでいるとはいえ、薫子が教会をたずねたことは一度もなかった。
礼拝をおこなっていない夜の教会は、暗く、そして静まり返っている。触れてはいけないものがあるような気がして、薫子は息をころしてキリストの像を見上げた。彼はうなだれて十字架にかけられていた。

教会の扉が、再び大きな音をたてて閉じた。
薫子は驚愕して振り返ったが、そこには誰もいなかった。
(いくらなんでも、閉じ込められたりはしないだろうけど)
自分で自分にいいきかせた。
しかし呼び鈴はどこにもない。
礼拝堂にも人影すらない。

薫子は礼拝堂を出た。他にあるのは地下へつづく階段のみ。
(なんかこの階段おりたら、帰ってこれないよーな気がする……)
恐怖を感じて薫子は教会を出た。
扉は当然、普通に開いた。

「ちっと考え直そう」
きた道をもどると、初老の紳士に出会った。
直感で、この紳士は司祭なのではないかと思い、
思い切って薫子は声をかけた。

「あのう……教会のドアなんですけど」
紳士は振り返った。
「教会がどうかしましたか」
「風で、かんぬきがはずれちゃってて」
そこまで言うと、紳士はすぐに気がつき、
「はずれちゃいましたか」
「ええ、それで、あのう、どなたに申し上げたらよいのかと……」
紳士は笑ってうなずいた。
「私、教会のものですから大丈夫です。知らせていただいてありがとうございました」

そして、鍵らしきものを手に、教会へむかって歩いていった。

薫子は安堵のため息をついた。

ほんとに怖かった。
イヤ、マジで怖かったんだから……。

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